Luv Letter
「三千年前の、失われた王の魂・・だと?」
キーボードを走らせていた指を止め、視線だけを遊戯に向ける。
唐突に何を言い出すのかと、黙って聞いていれば。
「どうやらそうらしいぜ」
こいつが何者かなんて、俺には関係ない。
「・・くだらんな。そんなオカルト話、信じられん」
そうして一つため息を吐くと、また視線をキーボードに戻した。
「海馬・・」
呼ばれて振り向くと、すぐ間近に遊戯の顔があった。
息がかかる程に近く――
「ごめん、な・・」
「何を謝る、貴様・・っ」
唇に、優しく触れるだけのキス。
椅子に背を預けたまま、そのままゆっくりと目を閉じた。
「・・・っ」
「今日は、おとなしいんだな」
「きっ・・貴様が変なことを言うからだ!」
真っ赤になって怒鳴る目の前の細い身体を強く抱きしめる。
「・・・遊戯?」
その様子がどこかおかしく思えて、訝しげに問い返した
「ずっと、こうしてたいな・・」
抱きしめる腕から伝わる体温が心地いい。
柔らかい栗色の髪に悪戯に指を絡めた。
こうして抱きしめることで確かに自分がここにいるのだと、実感出来るから・・。
「・・・勝手にすればいいだろう」
止めても無駄だと分かっているから出た言葉だったが、
自分もそう望んでいるように思えたことに驚いて、あわててその腕を押し返す。
「海馬?」
「やはり、ダメだ今すぐ帰れ!貴様の戯れ言に付き合ってる暇などない!」
「そう言うなって。・・・夜はこれからなんだぜ?」
「・・遊・・戯!」
そう言いながら近づいてくる唇と、もう一度キスをする。
柔らかい舌がぬるりと入り込んできて、きつく舌を絡めとられた。
「・・ふっ・・」
ぴちゃっと湿った水音が頭の中で反響する。それだけで頭の芯がぼうっと熱に痺れていく感じがした。
生きて伝わる温度。
何度も何度も角度を変えて、貪るように深く口づける。
「・・・・んっ」
塞がれる唇に奪われていく思考回路。
体格差があるのだから抵抗出来るはずなのに、ふにゃふにゃと体中から力が抜けて押し返すことすら出来なくなる。
「ゆう・・・ぎ・」
すべてを許すようにその名を呼んで
「海馬・・・」
また、お前を置いていくことだけが、
それだけが、ただ・・・
「好きだ、――」
「瀬人様、武藤遊戯がエジプトに発ちました」
「・・・・そうか」
磯野からの連絡に短く返事を返して受話器を置く。
ドサリと力無く椅子に背を預けて、自らの手で目隠しをするように顔を覆った。
「・・・ふん。・・・あのウソツキが・・」
震える声で小さく呟かれた言葉が、宙に消えていく。
指の隙間からこぼれ落ちた一粒の雫が、頬を伝ってゆっくりと落ちた。
さよならすら言わずに自分の前から消えていこうとするあいつに、今更会えるわけもない。
けれど。
「・・・・・」
目の前に置かれた受話器を取って、ためらいがちに耳にあてる。
「瀬人様?どうされましたか」
「・・・・・エジプトへ、行く。ジェット機の手配を頼めるか」
目を閉じると浮かぶ、常に自信に溢れたあの後ろ姿。
背中を預けてもいいとさえ思った、自分が認めた唯一無二のデュエリスト。
「・・・・・・っ」
一度も口にしたことはなかったから。
どんなにお前のことを好きかなんて、きっと知らないだろう。
自分がいなくなると分かっていて、俺の中にこの想いを残した。
おそらく、一生消えることのないこの想いを――
「貴様など、・・・大きらいだ」