青の軌跡
煌々と灯された明かり。街中には人々が笑顔で賑わう。
数年前に起きた内乱の痕跡は跡形もなく、現在のアメストリスは安寧そのものだった。
「・・・・・何年ぶりだろ・・・」
彼の人の元を去ってから。
青の軌跡
戦後すぐの時期、あちこちの内乱や暴動に軍本部はてんてこ舞いの状況である。
それに加えていまだに大総統の地位は空位であった。前任のブラッドレイは変わらず
行方不明のまま戦死者扱いされており、いまなら確実に昇格出来ると考えられた。
自分も少しでもロイの助けになればと、側について仕事を習い銃も扱えるようになった。
「やはり筋がいいな。」
「・・そうかぁ?・・やっぱ難しいよこれ・・」
くるくると銃を回しながら、口をへの字にして呟く少年が自分は何よりも愛しいと思う。
「エドワード。」
「ん?」
「ずっと私の側にいて欲しい。」
「えっ・・ちょっ・・・待っ・・ん・・んんーーっ!」
自分たちが今いる場所も考えずに口付けられた行為に、ロイの背中を叩くことで必死に抗議する。
「ん・・っ・・」
口内を隈なく蹂躙され、息苦しくなる一歩手前で名残惜しそうにしながらもようやく解放される。強く吸われて赤く色づいた唇に、その深さを表すように銀糸がつっと伝った。
「おまっ・・ここ射撃場だぞ何考えてんだよ・・っ!!!」
いつ何時、誰が入ってくるかも分からないのに。
自らの口を手でごしごしとこすりながら恥ずかしさのためか真っ赤になって怒鳴る。
「はははー。まぁまぁ、減るものじゃないし・・」
「そういう問題じゃないー!」
なんて怒鳴りながらも、本気で怒っていない自分に腹が立つ。
そしてそのことすら彼にはお見通しなのだと思うと余計に怒鳴らずにはいられなかった。
「っさっさと仕事しろ―!!」
それでも愛してしまったから
賢者の石の力で元に戻った今、軍に身を置く必要などないと、いつでも戻ってこいと口うるさいほどに言う弟に、それでも自分は彼の側で役に立ちたいのだと説明して。
ならばせめて年に1度くらいは顔を見せに戻って来いという。
きっとそれが弟なりの最大限の譲歩なのだろう。
(アル、相変わらず心配性なんだから・・)
事実この電話がロイの家から掛けられていると分かったら、もっと怒るかもしれない。
仕事を終えてから、彼の家で過ごすことが日常茶飯事になっていた。
酷い時には翌日そのまま出勤などということもある。
「・・ロイ?俺明日っからしばらく、リゼンブール行ってくるわ。」
電話をし終えて部屋に帰ってくれば、この家の主はいまだだるそうにもぞもぞしている。
「?ああ、いつものか。」
「ん。さっき電話したら今度こそ帰ってこいって。心配してるらしい。長期休暇ついでに顔出しに行ってくるよ。」
「・・母さんの墓参りもしたいしさ・・」
そう言いながらもはにかんで笑う様子はとても嬉しそうだ。
何だかんだと言っては悔しいほどにこの兄弟は仲がいい。
「エド・・・」
「っ・・なんだよ。まだすんのかよ・・っ・・ロ・・イ・・っ!」
僅かな抵抗を見せるも腕を取られて、ベッドに引き倒された。
「しばらく、会えないんだろう・・?」
言いながら圧し掛かってくる重みに目を閉じる。
「エドワード・・」
リゼンブールは、とても懐かしい匂いがした。
そよぐ風も。
風にゆれる草木も。
以前と何も変わらないのに。
(変わったのは、俺たちか・・
母の墓前に手を合わせ、ふと思う。
自分が、どれほど愚かだったのかを。
失われた命は、元には戻らない・・それがすべての理
だからこそ、何よりも尊いものなのだ、ということを・・・
結局、ウィンリィの出産の準備などもあり、思った以上に長居してしまった。
(アル・・幸せそうでよかった・・・
失われた命は戻らないけれど。
新しい命を、繋いでいくことは出来る。
自分はそれに、逆らっているのかもしれないけれど―――
故郷より戻って、最初に耳にしたのは、ロイが婚約するかもしれないという噂だった。
(そう・・なのか・・
チリっと、胸のどこかが痛む。
足元から、崩れ落ちていくような
(わかっては、いたんだけどな・・・
そういう日がくるかもしれないと、頭では理解していたつもりだった。
(―――ロイっ
声にならない声で・・その人を呼ぶ。
東部へ異動したいとは自ら申し出た。
上を目指す以上下手な人員は割けない。
ならばこそ東部のことは自分ひとりに任せて欲しいと、そう進言した。
別に、あの噂を聞いたからじゃない。
いつか離れなければならないとは、ずっと思っていた。
(これ以上ここにいたら余計に離れがたくなる・・・)
『もう、戻らないつもりか?』
(自分にしか出来ないことを、
『あんたは中央で、先のことだけ考えてればいい』
(あなたのために。
『・・っエドワード・・・・・っ!』
『俺じゃ、指揮官は務まらないって言うんなら、却下してくれていいさ』
『・・・・っ!・・君なら・・十分だろう・・・』
(ロイ―――
『・・・・・分かった。・・エドワードエルリック中佐。東部での司令官の任を命ずる。
何かあれば逐一報告するように。いいな?!』
『・・イエス・サー!』
今できる、精一杯の笑顔で――――
結局そうして逃げるように東部の地へ・・