青の軌跡3
「もう・・やめっ・・・・・っ」
久方ぶりのその行為に、引き攣れたような痛みが全身を走る。
「君が、私の元を逃げるように去ってから何年だ?」
あれから何度となく、吐き出された精が、想いの深さを物語っていた。
「・・逃げ・・て・なっ・・」
「私がここで、ずっと君を想っている間も、君は向こうで、あの男とよろしくやってたのか?
「っ・・・・!」
自虐的に呟かれたその言葉に、思わず頭がカッとなった。
「・・・こ・・の・馬鹿っ!馬鹿ロイ!」
繰り返される注挿に、肩で息継ぎをしながら抗議する。
「!」
「馬鹿とはなんだ馬鹿とは!」
「馬鹿だから馬鹿って言って何が悪い?!この馬鹿っ!!」
「・・・・・・・エドワード?」
激昂したかと思えば、視線を逸らして黙り込んでしまった。
何か、様子がおかしい―――・・
「・・・・ひっ・・く・・・だって・・・どうにもならないだろ・・
ずっと側に、いられるわけがないんだ・・・」
「―――――!」
澄んだ大きな瞳から、透明な雫がいくつもいくつも零れ落ちた。
正直、こんな風に泣く子だと思っていなかった。
涙を堪えて、歯をくいしばって、それでも前を向いて進んでいこうとする
そんな強さがあるのだとずっと思っていた。
「エド・・・」
「俺は男だから・・あんたの未来を潰すわけには行かない・・・」
だからっ・・・・・・っ・・」
自分にしか、出来ないことをしたかった・・・
最後の方は、涙に呑み込まれてうまく伝わらなかったかもしれない。
それでも、どうか自分のことを、信じて欲しかった。
堰を切ったかのように、泣きだしてしまったエドワードを見て、心が痛んだ。
自分はなんと浅はかだったのか。
まさかそんな風に考えているなんて思いもしなかった。
てっきり自分に嫌気が差したんだろうと、ずっとそう考えていた。
(これはもしや・・泣かせてしまった。というやつでは・・)
自分の言葉に反応して、泣きだしてしまった目の前の愛しいひと。
(泣き顔も可愛い・・・)
などと、不謹慎にも思ってしまう。
あんまりにも大人びているから、ついつい忘れてしまっていた。
この子がまだ思春期の子供だったということを。
「・・すまなかった・・エド・・」
「っ・・もういいっロイの馬鹿っ」
ごしごしと、目を擦るも、溢れ出した感情が止まらない。
悔しくて、悲しくて、でも想ってくれていたのが嬉しくて・・・
「君のことを手に入れたと思っていたのに、まだまだ全然だな」
「・・なにっそれ・・・」
「君が東部へ行く直前に変な噂があったろう・・」
腕の中に抱いた体が、びくりと小さく震えた。
あんな些細な噂が、彼をこんなにも苦しめていたとは・・。
「私は、誰かに恵まれた地位など望んでいない。欲しいものは、自分の手で掴むさ」
それはもちろん君のこともだ、と。
「伸し上がってみせる・・必ず・・。
だがその時、私の横には君にいてもらいたいんだ・・」
「っ・・・!」
また、大きく見開かれた瞳から大粒の雫が零れ落ちる。
「私と、共に歩こう―」
何度目かの絶頂を迎えて、気だるくなった体をロイに預けたまま、
どれほどそうしていただろうか。
「さっきのアレ・・・売り言葉に買い言葉だから・・・・」
優しく髪を撫でてくる手が心地いい。
「ああ・・・気づいていたよ」
「え・・」
「君の体が教えてくれた。」
さらりと言われたその言葉の意味に、全身の熱が上がっていくのが分かった。
「ちょっ・・・なっ・・」
真赤になって口をぱくぱくさせている様に思わず微笑がこぼれる。
「っ・・・っ・・・」
「それでなくても、君を誰かに渡すつもりなど毛頭ないがね」
覚悟しなさいと、優しいキスを唇に落とす。
「っ・・・・ほんと、馬鹿・・・かっこつけすぎなんだよ・・」
気恥かしさのせいか、ロイの肩口にすっぽりと顔を埋めて。
「そうかもしれないね・・・。
けど、愛しい者の前では、いつでも格好よく在りたいものさ」
頭上から降り注いでくる優しい言の葉が、すべてを癒すように・・・
止まっていた時が、ゆっくりと動き出した。