heaven cage




本当に、閉じ込めておけるのならばどんなにいいか―――――




「お呼びですか・・・?ファラオ」
急な呼び出しだと来てみれば、当の本人は呑気に湯浴みなどしていて。
「ああ、遅かったな・・・おかげでのぼせそうになったぞ?」
そんな事を言われても、自分が居る神殿から王の居る王宮に来るまでにはそれはそれは長い道のりがあるのだから。そんなことくらい分かっているはずなのに。
「だから、迎えをやるといっただろう」
「結構です。」
お前の助けなどいらない、とばかりにつんとしている目の前の人が。
どこか慌てる姿が見たくて、それは本当に無意識で・・
「・・セト」
ふっと身体が浮いたような感覚のあとに、五感の全てで熱さを感じた。
王の手によって湯の中に引きずり込まれたのだ。
「・・・!!!!なっなっ・・・!!」
何をするか!この大馬鹿者が・・・!と叫びたいのをぐっとこらえる。
「まぁ、少し付き合えよ。一人で入るのに飽きてきた所だったんだ。」
ならば後宮の女でも、遊び女でもいくらでもいるだろうが・・・!
なんでこの俺がお前の湯浴みを手伝わなければならんのだ・・・?!
まったくもって理不尽だ!!
心の中でぶつぶつ言いながらも、仕方がないのでそれに従う。
「・・・で?私は何をすれば良いのですか?」
「んー・・特には。」
無いのか・・・?!こんな所に呼び出して、しかも湯の中にまで引きずり込んでおいて!!
無いというのか・・・?貴様は!!
「・・・なんですか?」
ふと王の方を見てやると、何か不自然な視線を感じる。
「・・いや、やっぱ神官服っていいなぁ・・って思ってさ」
明らかに何か違う意味を含んでいるようなその言いまわしに、よくよく今現在の自分の格好を見直してみる。
「・・・!!!!!」


神官服はどちらかというと服というよりかは「布」に近い。
何枚もの薄布を重ねて作ってあるからだ。
普段は身を守るそれが今は水分を吸って、重く身体に纏わりついている。
身体の線がくっきりと、むしろ透けてしまいそうなくらいに。
「ほんっと〜〜にいいよなぁ・・」
「!!!!!」
にやにやと笑いながらのその言葉に、見られている恥ずかしさからか、勢いよく湯の中に身を沈めた。
「なんだ?そんなに浸かりたかったのか?」
「・・・っ!!(このっ・・・よくもぬけぬけと・・!)」
とにかくその視線から逃れたくて、肩まできっちりつかりながらも徐々に王から遠ざかろうと試みる。
「どこへ行く気だ?・・セト?」
明らかに楽しんでいるとしか思えないその声色に、かっと頭に血が上る。
(・・おのれっ・・・・)
なんとか一定の距離を保ちながらも、王の方を向きながら下がっているせいか
気が付けば背に壁があった。どうやらかなり湯殿の端の方まで来てしまったようだ。
角に追い詰められてしまったら逃げ場が無くなってしまう。
「・・・・じゃあ俺はそろそろ上がるかな」
「・・・?」
てっきりこのままいつものように、なしくずしに行為に及ぶのかと思っていたのに。
予想外の行動に、ふっと警戒していた体から力が抜ける。
「お前も早く上がってこいよ・・・?」
(・・・言われなくても分かってるわ!こんな馬鹿馬鹿しいことにこれ以上付き合ってられるか!!)
さっさと上がって自らの職務に戻ろう。急な呼び出しに、何もかもそのままで来てしまったのだから。
そう思って、湯殿の淵に手をかけて上がろうとして、ようやく王の真意が分かった。
おかしいと思ったのだ。わざわざこんな所に呼び出しておいて、あんなにあっさりと退くような奴ではないと知っているから。
「・・どうした?上がらないのか?」
「〜〜〜〜〜〜・・・っ!!!!」
あまりのことに怒りの臨界点を軽々と超えてしまいそうだった。
今、自分の目の前には奴がいる。
このまま湯から上がれば充分に水気を含んだ布が張り付いて、それはもう「服」としての
役目を果たさないだろう。
しかも今日に限って白地の装いで。自分で見ても肌の色が透けているのが分かるのだ。
(・・貴様という奴はっ・・!!)
上がるに上がれなくなって、その場で湯に浸りながら沈黙してしまう。
だがそれも何時まで保つだろうか。悔しいけれどずっとこうしているわけにはいかない。


(・・熱・・い・・)
どれくらいそうしていたであろうか。
神官といえど所詮人の子である。長時間入り続ければそのうち湯当たりしてしまう。
とめどとなく溢れ出てくるその湯の熱さに、だんだんと頭がくらくらしてくる。
上がりつづける湯気に、心臓の鼓動がおかしいぐらいに早く響いて・・
「・・・まだ、上がらないのか?」
「・・・・・平気です・・」
本当は今すぐにでもこの熱さから逃れたいけど。
(貴様の前に恥を晒すくらいなら・・・!)
このままこの熱さに身を置いておく方がどんなにいいか。
そうは言っても、もう自分では座っていることさえ出来ないほど、身体がだるい。
淵に手をかけて、それに頬を寄せて頭を支える。こうしていないとそのまま湯の中に沈んでいってしまいそうだった。
「・・・・(駄目だ・・熱・・い・・)」
ずるずるとそのままその場に崩れ落ちるようにして。意識が朦朧としていくのをどこか遠くで理解している自分がいた。
このまま・・沈んでしまったら・・・・・・楽に―――・・なれる?
「セト?・・おい大丈夫か?!」
バシャンと近くで水音が聞こえた。
腕を捕まれてようやく、それが王が飛びこんだ音なのだと知った。
「っ・・離せ・・この・・」
もう敬語も何も、熱さの向こうに吹き飛んでいた。ただそっとしておいて貰いたくて。
「・・おれ・・に、触る・な・・・っ・」
貴様の助けなど借りたくない。放っておいてくれといっているその青い瞳を無視して、
熱く薄紅色に染まったその身体を強引に、湯殿の淵から抱き上げる。
「・・いや・・だ・・・・」
「・・少し黙ってろ・・・ホントにお前は・・」
どうしてそんなに強情なんだ?と小さくため息をついて、近くにある寝台にそっと横たえた。
側に置いてあった水を口に含んで、苦しそうに息をしているそれに重ねる。
「・・!んっ・・ふ・・」
咽喉を潤していくその涼しさに、無意識のうちにそれを求めて自ら口付けをねだった。
「・・もっと・・か?」
強欲に、自分の唇に残った水分まで奪い取ろうとする舌を名残惜しそうに離して、もう一度その口に与えてやる。
「んっ・・う」
こくりと咽喉を上下させてそれを飲み下す。
「・・セト?・・」
「・・・・・」
ぼーっと視点の定まらなかった青い瞳が、だんだんと普段の煌きを取り戻していく。
(・・・?どうして外に?・・・そういえば確かファラオに腕を捕まれて・・・)
「・・・!!!!」
はっとして、ずり下がるようにしながらかなり不自然な格好で後ろへと下がる。
急に身体を起こしたため、まだ少し頭がくらくらした。
「・・?どうした?」
(どうしたもこうしたもあるかっ!こんな格好の自分を、一番見られたくない奴に見られて・・挙句の果てに、のぼせた所を助けられるなど・・・!!!)
「セト?」
伸ばされた手を乱暴に払って、まるで猫が威嚇するかのようにその双眸で睨みつける。
「それ以上、近づかないでもらいましょうか・・」
「何だ・・もう戻ったのか・・つまらんな。さっきまでのお前は素直で可愛かったぞ?」
無意識とは言えども、何となくだが身体のどこかで覚えている。
自分から欲しがるなどとあるはずは無いと思っていたのに・・。その割にはやたらとリアルな感触だったと・・。
「・・あっあれは・・・っ」
覚えているであろうその部分を手で覆い隠して、その先の言葉を咽喉の奥に詰まらせる。
「その敬語もやめろと言ってあったはずだが・・?」
ついと腕をまわされて。そのまま前に引き倒された。
「っ・・何を・・!ファラオ・・?!」
自然、押さえ込まれるような体勢になる。捕まれた手の強さに少し驚きながら。
「ファラ・・」
言い終わることなくその言葉は王によって飲み込まれた。
さっきまでの労わるような優しさはなくて。ただ熱だけを追い求めるような激しいキス。
「っ・・んん・・!」
口蓋をくすぐるようになぞられて、背筋がぞくりと震えた。逃げまどう舌を絡めとられて、そのまま軽く甘噛みされる。
「んっ・・はっあ・・」
口内を蹂躙するその息苦しさに、身を捩るようにしながら浅く喘ぐ。
いい加減に離してほしくて、どうにかしようと両腕で突っ張ってはみたけれど、覆い被さるようにして押さえつけられているためにどうにもなりそうになかった。
「はっ・・く・・ふ・・」
思う様、口付けられた後ようやく何とか解放された。急激に肺にはいる酸素に驚いて、飲み込みきれなかった唾液が顎を伝って、胸へと落ちる。
その流れを舌でなぞるようにして辿られた。いつの間にか服ははだけて、もはや腰の辺りに申し訳なさ程度に纏わりついているようなものでしかない。
「・・セト・・・」
荒く呼吸を繰り返す胸に、淡く彩られたそれを舌で捏ねるようにして愛撫してやる。
もう片方は手のはらで押し潰すようにしてやると、ぷっくりと紅く起ち上がる。
時々柔らかく歯をたてると、その感触を嫌がるようにしてゆるゆると頭が振られた。
「!っ・・やめっ・・・」
執拗にその部分だけを舐めまわされて、びくびくと身体が震えた。
頭を押し返そうと両手をまわすけれど。
際限無く訪れる快感にどうにも上手く力が入らない。
このままではいけないと分かっているのに。
このまままたずるずると流されて事を終えたとしても、ただ自分が辛くなるだけだと・・分かっている筈なのに。

「・・あっあっ・・」
更に空いた方の手に自身まで掴まれて。
瞬間、与えられた刺激の強さに頭の中がからっぽになる。
緩く上下に動かすように扱かれるだけでも、じくじくと腰の辺りが甘く痺れた。
「あ・・はっ・・ああ・・」
どんなに抗おうとも、身体は勝手に高みを目指した。この熱を鎮めるために。
もたげた頭からじんわりと滲み出た愛液を、塗りつけるようにして握り込められると
耳を塞ぎたくなるような卑猥な水音が聞こえてきてた。
羞恥のあまり身体がかぁっと、更にまたその熱を上げる。
「・・・やっ・・あっ・・くぅ・・」
けれど何時までたっても頑なに、自分を求めようとはしない。
まぁそんな強情なところもたまらなく好きなわけだが。
「・・そろそろイケよ・・つらいだろ・・?」
そう促されても、浅ましく欲望だけを求める自分など見せられる筈がない。
いちいち与えられる刺激に反応するこの身体がどうにも忌々しい。
そんな屈辱的な己など、認められない。認めたくなかった・・。
「・・・ホントに・・お前は―・・・」
呆れたような、あるいは感心したかのような、そんな声を聞いた。
荒く息を吐くそれに口付けられる。絡め取られた舌に、時折湿った水音が漏れた。
「ふ・・っん・・」
先程までさんざん弄ばれていた胸の飾りは、王の舌によっててらてらと光っている。
肌の上には点々と紅い印が、まるで所有の証のように浮かんでいた。
「あっあっ・・・や・・っ!」
出口を求めて蓄積された熱が狂ったように身体の中を駆け巡る。
敏感になりすぎる身体は、本当に些細なことにさえ反応を返した。肌の上を通りすぎる布の感触にすらもどかしいほどに。
「・・あっ・・はっう、アアっ・・!」
頬に涙を散らしながら、びくびくと小刻みに身体を痙攣させる。
足をぴんと張り詰めて、どうにかぎりぎり限界の所でその感覚を堪えようとするけれど。
「・・もうイケって―・・・」
握り込まれたその先端をぐりっと指でえぐる様に愛撫されて・・・。
たまらずに。
「!!っ・・はっああ・・あ、いやあああ・・っ!!」
がくんと顎を仰け反らせて、溜め込んでいた熱の全てを吐き出した。
きつく閉じられた目尻から零れ落ちる涙をキスで絡めとって。
薄っすらと開かれた蒼瞳の奥は、欲望に濡れて熱く潤んでいた。
「は・・あぁ・・・・ん・・」
びくびくと辛そうに揺らされる身体を抱いて、優しくその背中を撫でてやる。
額や髪にも、そこここにキスを落としながら。だんだんと落ちついていく呼吸に。
「・・っ・・ハァ・・・・」
湯当たりしたこともあってか、もたらされるその倦怠感がなんとも言えず気持ち良かった。
王の手の中に抱かれているということも、とにかくもうどうでも良くて。
「っ・・・・ふ・・・・」
目を開けている事さえ今の自分には疎ましい。ぼんやりと白く目の前が霞んでいく。
それがいわゆる『眠い』という欲求だと気づくこともなくゆっくりとその目を閉じる。
「・・セト?・・・」
自分をおいて完全に眠りへと落ちてしまったその身体を抱き締めて。
(・・・まぁ、仕方ないか・・・ちょっと・・いや、かなり辛いけど・・・)
さんざん好き放題したしなぁ・・と、ため息まじりに。
「・・・ん・・・」
すうすうと柔らかい寝息が聞こえて、どこかほっとする。
今だけは自分の手の中に守っていられるから。
逃げるのならいっそのこと追いかけて捕まえて閉じ込めてしまいたい。
出来るならこの腕で檻を作ってずっと抱き締めていたい。
「セト・・・」
お前がいれば、後は何も望まないのに・・。
「愛している・・」
永遠に。お前だけを。