球技大会




私立婆娑羅学園高等部。

都内某所、学園の敷地内に初等部から大学院までを併設する巨大なマンモス校である。
(ちなみにこの敷地は実は理事長の私有地ではないかとの噂がある)
各々の専門的な研究機関や一流企業、政財界・経済界を問わず、毎年数多く優秀な人材を輩出している。
そんな学園の基本理念は一貫して『文武両道』
それぞれに女子寮・男子寮と完備しており、学習環境や施設・設備も充実しているため 都内近郊を問わず、県外各地、旧家や一流企業の子息子女が集まることが多い都内屈指の名門共学校である。
しかしながら理事長の教育方針により色々と規格外なことが多く、一般家庭の生徒が度々驚愕する事態に出くわすということも良くある光景である。
男子生徒は詰襟の学ラン(※夏期はサマーセーターの着用が許可されている)、女子生徒は明るめの茶色のワンピース(※下の部分がプリーツスカート、リボンは赤)がそれぞれに用意されている。

一年次、二年次、三年次にそれぞれ進級の際にクラス替えが行われる。クラスはAからDまでの各学年4クラス。別に成績順というわけでもなく、何を基準に割り振られているかは謎に包まれたままである。
それに伴い、進級後にすぐにある行事が5月の大型連休のまえに予定されている『球技大会』である。
一年生に至っては入学式後早々の行事のため右往左往する者が多くみられるが、一応クラス内の団結力を高めようとの一種のレクリエーション的な目的もあるため、全校生徒強制参加の一大イベントである。
各クラスの代表選手以外の者は互いに全力での応援合戦に参加することとなる。
男女別でこそあるが、一年・二年・三年クラス別対抗の総当たり戦、対戦表は各クラス代表による顔合わせの後、厳正な抽選によって決められる。くじ引きの運にもよるが場合によっては入学したての一年生クラスVS場数を踏んでる三年生クラスということも十分に有り得るのだ。
球技の種目はこれまた理事長権限で毎年ランダムに決められる。前年度はバスケットボールであった。

ちなみに元親と政宗は、前年度一年生クラスながら準優勝でMVPの表彰を受けている。
一年巡って、またそんな季節が今年もやってきた。









「あー…だりぃ…」

6限目の授業も終わりHRが始まる。帰宅部な元親は普通であればこのまま寮へ帰宅するか、何処かへ寄り道してから帰るというのが常であるが。

「Ha!…何ふてくされてんだ?」

ぐったりと机に突っ伏していた自分に向かって前の席に座っている政宗が話しかけてくる。

「だってお前聞いたか今年の球技…」
「Ah−、なんだったか…バレーボール?」
「俺ぁ、今年は絶対サッカーだと思ったんだけどな…」

球技大会自体は、身体を動かす事が好きな自分には嬉しい行事である。バレーボールは真面目にやったことはないが、みんなでワイワイやるのはきっと楽しいだろう。
政宗とも1年次、2年次と同じクラスなので、去年のことを振り返れば、それなりにいいチームになるのではないかとも思っている。

「…何か賭けでもしたか?」
「んー、慶二と昼飯一週間分賭けて…」
「あっさり負けた、と」

たかがそれだけのことなのだが、何故だか猛烈に悔しい。
なんというか…きっと、

「…あの慶二に負けたってのが納得いかねぇ……」
「HAHAHA!…あいつ賭け事案外強いぜ?…オレもなぁ…」

含みを持たせた言い回しに、突っ伏していた視線を上げて政宗を見る。

「お前も?」
「Ah−、1年ん時に結構やられた」
「…知ってんなら言えよ…」

がっくりと机に再度突っ伏して大きな溜め息とともにうな垂れる。
それじゃツマラナイだろ?Yousee?そんな声が頭上から聞こえた。
まぁ確かにそれが自分だったら教えないかもしれない。と思ってしまったのだからお互い様ではある。

「sorry!この後どっか寄ってくか?…カワイソウな元親クンに奢ってやるぜ?」

口の端を僅かに引き上げて、にんまりと笑う。その悪戯めいた笑いに何か嫌な予感がする。

「…なんか裏がありそうだから遠慮しとく…」
「Ah?ひでぇな……なぁ、元就サン?」
「…!?!?」

その名前の響きに、ガバっと慌てて机から起き上る。そういえばと辺りを見回せばHRももうとっくに終わっていたようで、教室内には生徒の数も既にまばらになっていた。

「…一体何の話ぞ」

若干呆れたような表情で、自分のすぐ後ろに元就が立っていた。後ろのドアから入ってきたのだろう、自分にはその姿が見えなかったが政宗には見えていた、ということで。

「毛利わりぃ、HR終わってんの気がつかなくて…」
「構わぬ、姿が見えぬから何ぞあったのかと思うて来てみたが……伊達と寄り道して帰るのなら、我は先に帰っておるぞ?」
「いやいやいや、寄り道しないで帰ります!…じゃーな、政宗!」

適当に机の上に転がってた荷物を鞄に詰め込んで、慌てて席を立つ。普段は授業が終わり次第いそいそと帰り支度をして同じく帰宅部の元就を迎えにいくのが日課であるが、自分の姿が見えないからと、こうして来てくれたのは初めてかもしれない。
二人で帰るのが元就の中でごく当たり前のことになっているのなら、それは自分にとってはすごく嬉しいことであるし、これまでの努力が報われたというものでもある。

(great!…すげー嬉しそうじゃねぇか、…)

さっきまでの落ち込み具合が嘘のように生き生きとしている元親を、さすがに邪魔をするのはカワイソウかと、ひらひらと手を振って二人を見送る。



「…オレも、帰るかねぇ」

ぐーっと両腕を伸ばして大きく背伸びをしながら校庭を見やる。
球技大会まで二週間ちょっと。校庭では大急ぎでコートの準備が行われていた。この時期にもなると専用のコートがクラス分用意され、大会までの二週間各々、放課後、休み時間を問わず練習に励むのである。ちなみにその間、校庭を使った部活動はもちろんその他の部活動も一切が全面休止になる。
とにかく球技大会が終わるまではそれ一本に専念しろということらしい。

実はここら辺の面子は皆寮生なのだが各々部活動や委員会の活動などがあるため、下校時はバラバラになることが多い。
結局は夕飯時に顔をあわせたり、寮の1Fにある談話室などでだべっている事も多いのだが。
政宗についても普段ならば己の所属している部活動に顔を出している時間である。
今日はコートの設営日であるため、校内に残っている生徒ももう僅かであった。

「まー、たまには早く帰んのもいいか」

そう呟くと、同じように手早く机の上の荷物をまとめて席を立つ。
きっと明日からは、怒涛の練習の日々が始まるのだろうな、などと思いつつ。