黒雛2
「・・っう・ん・・あっ!・・・はぁ・・っ」
繋いだ身体から、自身をずるりと引き抜いた。
その感触に耐え難いように、その身を捩り、はね上がった吐息と共に喘ぎが零れる。
眉根のよった白い額に口付けて、耳たぶを甘噛みしてやった。
「・・っ!やぁ・・あ」
あれから結局名前も聞けずじまいで、少々落ち込み気味なロイである。
行為の途中で、絶頂のぎりぎり一歩手前まで追い詰めても、
涙を散らすだけで、遂には言わせることが出来なかった。
「・・・・なんで、君はそんなに強情なんだ?」
おもわずぽつりと呟く。
「・・・だ・・から、別にするだけなら、関係ない・・だろっ?」
つい先程、体内の熱を吐き出してぐったりとした身体で、うつ伏せのまま気だるそうに視線だけをロイの方に向ける。
「私の名前は呼んでくれたっていいじゃないか・・」
汗で額に張り付いている金糸を、指で梳きながら耳元で囁くように呟いた。
「・・っ!・・客とは・・そういう・・ことしないって。・・決めてる・・」
身体を繋ぐという行為自体が、すでに自身に相当負担をかけるというのに
更に関係が深くなるようなことはごめんだった。
・・・離れがたくなる。というのも事実で・・。
「・・・・っ・・はぁぁ・・・」
返ってきた答えに盛大にため息をつく。
(ようするにあれか。置いていかれた子供。)
置いていかれて、裏切られるくらいなら、最初からその繋がり全てを否定する。
知ることもなければ、知られることもない。
どこでどうなろうと悲しまれることもなければ。
・・・・・悲しむこともない。と。
「・・君は、それでいいのか・・?」
その言葉の裏に隠された悲鳴を聞いてしまったら・・。こうなったらもう本当に放ってはおけない。
「・・っ?・・なんだよ・・」
ため息と共に黙り込んでしまったかと思えば、急な問いかけに訳がわからない。
一体目の前のこの男が何を考えているのか。
「・・私を、呼べ」
呼べば応える者も居るのだと、それをただ分かって欲しい。
「・・っな・・に?・・あっ・・!」
剥き出しの白い肩に口付けて、背中のラインを指でなぞる。
辿り着いた先にある双丘を割って、先程まで自身を呑み込んでいた秘部へと指を一本滑り込ませた。
「っ・・!やっ・・ああ・・!」
すでに十分に愛撫を受け入れたそこは、難なく突き入れた指を呑み込んで更に奥へと切なげに収縮を繰り返す。
途端どろりと、秘部から吐き出された情事の名残である液体が、エドの太腿を伝った。
「うっ・・く・・も、やめ・・」
「まだ、目的を達成していないのでね・・」
「・・・っ!!・・・」
諦めの悪い男に、非難の目つきで腕の下からきつく睨み上げる。
熱で上気して涙に潤んだ目では、余計に煽るだけだということも知らずに。
(っ・・どうやら、本気になりそうだ・・)
指を二本に増やし中を掻き回すようにして動かすと、ちゅくちゅくといやらしい水音が響いた。
いまだ慣れないのか、その羞恥にきつく目を閉じて涙を滲ませる。
「・・っふっああ・・ん・・くぅ・・っ」
声を噛んで、熱を殺そうとしている様も、目元を上気させて喘ぐ様子も凄絶に色っぽい。
尚のこと、めちゃくちゃに啼かせてみたくなる。
「名前を・・聞かせてくれないか・・?」
エドの耳元から直接、脳内に響くように吐息に混ぜて言葉を紡ぐ。
「っ!・・あっ・ぁ・・」
背筋がぞわりと肌が粟立つのが分かった。
熱に朦朧とした頭を、弱弱しく振って抵抗することしか出来ない。
「・・本当に強情だね、君は・・」
空いているもう一方の手を、まだ幼いエドの性器へと伸ばし、優しく握りこんで上下に扱いてやる。
「っ・・やっ・・いやぁっ・・!」
とろとろと先端から蜜を溢したそれは、すぐにロイの手の中で硬く勃ち上がった。
急すぎる直接的な刺激に、エドの口から思わず悲鳴が洩れる。
「・・嫌、じゃないだろう・・?ここをこんなにして・・。」
言って、わざとエドに聞こえるようにぬちゅぬちゅと激しく指を抜き差しする。
自らを貶めるようなその言葉に、さらにかぁっと全身に血が上る。
「!っや・・めて・・や・・だ・・やだぁ・・っ」
赤く潤んだ粘膜が引き攣れて、ぞわぞわと背筋を痺れたような感覚が走った。
その熱をやり過ごすかのようにきつく閉じた目尻から、透明な雫が滑り落ちる。
「ひっ・・あっ、・・く・・っ・・」
エドの頬を伝うそれを舌で絡めとって、そのままキスをする。
苦しそうに眉根を寄せて、白い肌で喘ぐ姿をこのまま見ているのもいいのだけれど。
さっき、もそうだった。
持てる全てで焦らすだけ焦らして。火照る身体をそのままに、
猫のように撓った背中も、熱に潤んだ瞳も、仰け反る白い首筋も・・。
シーツを握り締めた細い指でさえ、全てが限界を物語っていたのに。
彼が口を開くことはなかった。
何がそこまで頑なに彼の心を縛るのか。
(・・実に興味深い、な。)
「辛いだろう・・?どうして欲しい?」
意地の悪い笑みを唇に浮かべて、己の腕の下で途切れ途切れに息を紡ぐ身体に問いかける。
ゆるゆると入り口付近で愛撫を繰り返す指先では、その奥にある欲望までは満たされない。
「言ってごらん・・?」
中途半端に煽られた身体が、耳元でその囁くような声音にすらびくりと反応を返した。
「っぁ・・あ、アァっ・・!」
じりじりと灼けるような、しびれるような疼きを奥底に感じても、懇願など出来るはずもない。
今の自分に出来るのはどうにかその熱を耐えられるように、固く瞳を閉ざすだけで。
かたかたと小刻みに震える身体を自らの手でぎゅっと強く抱いた。
エドのその姿に思わず苦笑が零れる。
手を伸ばせば、触れる位置にいる自分。それすらも拒絶して。
(仕方ないな・・。しかし余計に気になるじゃないか・・)
後ろから覆いこむように、幾度となく精を呑み込んで潤んだその蕾に自らの昂ぶりを押しあて、それから一息に貫いた。
「・・・!!!やっああ・・ァア――っ!!」
突如与えられたその衝撃に目の奥がチカチカする。急激に高められた快感に理性が追い付いていかない。
激しく繰り返される抽挿に意識が途切れそうになった。
「やっ、あぁん・・うん・・あ、あ、はっ・・あぁ!」
がくがくと揺さぶられるままに喘ぎだけを零して、だらしなく開いた唇からは唾液が伝い跡を残した。
「・・・ん・・・」
目を覚ませば、見慣れた天井。
何度夢であれば・・と願ったことか。
絶頂を迎えたまま意識を手放してしまったのだろう・・。身体の奥に先程の性交の余韻を感じて、形のいい眉を僅かにひそめる。
だるそうに足を動かせば、どろりとその名残が内股を伝った。
「っ・・・!」
その感触に息を詰める。幾度となく繰り返しても慣れることはない。
(・・気持ち・・悪い・・・)
そのままで部屋を見渡せば、もう男の姿はなかった。
(・・・・やっぱり・・)
・・いつものこと。
期待をする方が馬鹿なのだと、もう嫌と言うほど分かっているから。
客が帰ったとすれば、そのうち片付けの者が来るだろう。
(・・だりぃ・・)
ごろりと仰向けに、手足を投げ出して布団に寝転がる。
見慣れた天井・・・。
独り残された部屋の静けさに、ぐにゃりと目の前が涙に滲んだ。
両手で顔を覆って、声を殺して・・。
「・・ふっ・・・っ・・」
涙に滲んでも頬を伝うことはない。
泣けば全てが崩れていきそうな気がして・・。溢れそうになるのを必死に堪えた。
・・どれくらいそうしていただろうか・・。
やがてカラリと襖の開く音がして、足音が近づいてきた。
(起きる・・か。)
知らないうちにかなり無理をしていたのだろう・・何とか上体を起こすもその場から立ち上がることが出来ない。
(・・・っちっくしょ・・)
今はいない、男の顔を思い浮かべて悪態をつく。
すぐ後ろに人の気配を感じて、
「悪い・・俺今すぐは動けねぇからまた後できてくれよ。」
背後を振り向くこともままならないまま伝える。
そんな訳だから今日はもう客は取れない・・と言おうとして、聞こえてきた声に驚いた。
「・・すまない・・かなり無茶をしたからな・・・。大丈夫か・・?」
「・・・・・っ・・・・・??!!!」
何であんたがここにいるんだ?!とでも言いたそうに大きく見開いた金目が前に回りこんだ男の姿を映し出す。
「?どうしたんだ・・?そんなに驚いて・・・。」
「・・・だってあんた・・・・帰ったんじゃあ・・・・」
居るはずの無い人間が目の前にいるのだから驚かずにはいられない。
「まさか!・・君をこのままで帰れるわけがないだろう。今、身請けしに行っていたんだ。」
「?えっ?・・・なに、それ・・どういう・・・っ!!ちょっ・・・」
分けが分からないままコートに包れ抱き上げられる。
「話はあとでゆっくり聞くから。そのままでは気持ちが悪いだろう・・?」
(・・そりゃ気持ち悪い。けど・・・)
「って、だからどこ連れてく気だよっ?!」
世間一般的に言われるお姫様だっこの状態で、自分を抱く男を睨み付けながら怒鳴る。
「私の家だ。車までこのままで行くから落ちないようにしがみついててくれないか?」
「っな・・・んだ・・よそれっ?!・・・なん・・・・?!!」
突如ぐらりと揺れた身体にびっくりして思わずロイの首筋にしがみつく。
背中の方にまで手を回してきつく服を掴んだ。
「ふっ・・それでいい・・。」
「!!・・・あんたわざと・・」
何すんだよっ!・・と言おうとして視線が合う。
唇に笑みを引いて、優しそうに見つめてくる黒瞳にどきりとした。
「・・・・・・・・。」
顔の熱がかぁっと一気に上昇したような気がする。
きっと今自分は真っ赤なんだろうな・・と客観的に思いながらも本当は、今すぐに降ろせと言いたいのに言葉が出てこない。
何だか気恥ずかしさにそのまま肩口に顔を埋めてしまう。
(・・可愛い・・・)
その一連の仕草を見ていたロイは、そう思わずにはいられなかった。
見れば耳まで真っ赤になっている。
自分の腕の下で喘いでる姿はあんなに艶っぽいのに、今はこんな簡単なことで真っ赤になって恥ずかしがっている。
そのギャップに思わず笑いが零れた。
「っ!!!わっ・・笑うな――!!」
「くくっ・・いや、悪い・・・くっ・・」
「〜〜〜〜っ!!」
ぽかぽかと男の背中を叩いて猛烈に抗議するも、どうやら受け入れてもらえそうにない。
「もうっ!・・離せよ!!」
このままじゃ埒が明かないとばかりに、頬っぺたをぷぅっと膨らませて突っかかる。
「それは出来ないな。」
「?!なんでっ!」
「・・・まぁ・・・一目惚れ・・というやつだ。覚悟したまえ。」
「・・・・!!・・・・・おっ・・おれはあんたなんか・・・」
「嫌いかね?」
さっきまであんなに自分のことを笑ってたのに、急に真剣な目つきで覗き込まれる。
その瞳のあまりの深さに・・
「・・・きらい・・・あーもー大ッキライ・・!!」
殊更に強く抱きついて、想いとは反対にそう一息に叫んだ。
きっともう自分の気持ちなんてばればれなんだろうな・・と思いつつ。
くすくすと頭上から聴こえる笑い声が妙に心地よかった。


